秀岳館女子サッカー部へ
今日、秀岳館女子高校サッカー部が、全国大会へ向けて出発しました。
この1年間、私はこの日に向けて、綿密なスケジュールを組んできました。
そのスタートは、前回の選手権(1月6日vs神村学園)が終わった瞬間―― チームがベスト4になった、あの瞬間からです。
あの時から、私の頭の中には、鮮明な「映像」がありました。 それは、今年の試合終了の笛が鳴った瞬間、
フィールドの中央で歓喜の輪ができている姿です。 私には、優勝する姿が見えていました。
だからこそ、矢野監督との会話の中で、 「どこにチームの照準(ピーク)を合わせるか」。
その答えは明確でした。
まずは、最初の山である「熊本県大会」。
私の中では通過点に過ぎない場所でしたが、
同時に 「絶対に勝たないといけない、勝たないと何も始まらない」 場所でもありました。
具体的には、11月8日(土)の決勝戦。
ここにチームのコンディションが一度ピークに達するように合わせました。
結果は、見事に優勝。 選手たちが喜びを爆発させる姿を見て、私も誇らしく思いました。
しかし、同時に私の頭の中は非常に冷静でした。 「ここは、あくまで通過点だ」
この決勝戦を一つのピークとしましたが、次の全国大会までのプランは、既に全て計画済みでした。
私たちの目指す場所は、県大会の優勝ではありません。
その先にある最終目標、 「全日本高等学校女子サッカー選手権大会(全国大会)」での優勝です。
県大会が終わった翌日から、私の頭はすぐにその計画に沿って、
全国大会へ向けての「再調整」へと切り替わっていました。 この1年間の全てのトレーニングは、
そこからの「逆算」でした。
正直に吐露すると、トレーナーとして指導をしていて、一番「虚しさ」を感じる瞬間があります。
それは、「自分は必要とされていないのではないか」と感じる時です。
こちらがどんなに熱い思いで提供しても、軽くあしらわれたり、思いが伝わらなかったり。
あるいは、私を指導者としてではなく、ただの「コンテンツ」として扱われたり。
もちろん、そうやって適当にあしらわれるのは、私自身の「実力不足」ゆえであることも理解しています。
それでも、長年この仕事をしていると、そんな一方通行な反応に慣れてしまっている自分もいました。
しかし、このチームは違いました。
秀岳館女子サッカー部、指導陣、そして選手たち。 彼らは、私の持っている力を100%どころか、
「120%以上」引き出してくれました。
その熱量は、指導に向かう車での移動中でも変わりませんでした。
行きは、これから行う指導のイメージをシミュレーションしました。
そして帰りは、現場で目に焼き付けた選手の動きを脳内で再生し、自分の体に「写し込み」ました。
指導をしていて、これほど充実した時間はありませんでした。
選手自身の動きが、私の想像を超えてどんどん進化していく。
その変化を目の当たりにするたび、彼女たちの底知れない「ポテンシャル」を感じずにはいられませんでした。
思った以上に動きが変わっていく過程を見るのは、
私にとっても感動的であり、 純粋に「楽しい」と思える時間でした。
また、私が話している時の彼女たちの眼差し。
一言も聞き漏らすまいと、真剣に耳を傾けてくれる。
その姿に、トレーナーとしてこれ以上ない「やりがい」を感じさせてもらいました。
今の時代、SNSを見れば、華やかでかっこいいトレーニング動画が溢れています。
人間ですから、ついそういった目新しいものや、自分にとって都合の良い情報に目を奪われがちです。
しかし、本当に体に効くトレーニングとは、実は驚くほど「地味」なものです。
決して派手ではないメニューを、2、3回やって終わりにするのではなく、
何百回、何千回とコツコツ積み重ねる。それができるかどうかが、勝負の分かれ目です。
そして、ただ回数をこなすだけではありません。
私が大切にしているのは、種目に入る前の「取り組み方」です。
いきなり動くのではなく、その前の「立ち方」、「構え」、わずかな「重心の乗せ方」。
そして何より大切なのが、「脳内のイメージ」です。
「この動きは何のためにやっているのか?」
「これをやることで、未来の自分がどう変わるのか?」
「試合のあの局面で、どういうプレーに繋がるのか?」
ただ言われたからやるのではなく、自分の未来の姿を明確にイメージできているか。
この「準備(セットアップ)」と「イメージ」が完璧に揃って初めて、
トレーニングの効果は天と地ほど変わります。
このチームの指導陣は、そういった「地味で細かくて面倒なこと」の重要性を深く理解し、
選手たちに徹底して継続させてくれました。
また、矢野監督だけでなく、コーチの方々とも密に連携を取ってきました。
私が一方的にメニューを押し付けたわけではありません。
「今のチームにはここが足りない」 「この動きをもっと強化してほしい」
監督やコーチからの具体的な提案や要望を聞き、
それをどうトレーニングに落とし込むか、現場と二人三脚で作り上げてきたものです。
何より心を動かされたのは、チームとしての「覚悟」です。
勝つために、「これまでのやり方を一気に変える強さ」を持っていました。 今まで積み上げてきたものを変えるというのは、とてつもない勇気が必要です。
その覚悟を目の当たりにしたからこそ、私の心にも火がついたのです。
「このチームのためなら、私の持てる全てを注ぎ込みたい」 そう思わせてくれました。
気の利いた言葉で鼓舞するのは、正直なところ、あまり得意ではありません。
言葉で飾るよりも、行動で示すことしか私にはできないと思いました。
だから私は、あえて言葉にはしませんでした。
そしてもう一つ。 今回に関しては、あえて私個人の感情は、
できるだけ一切表に出さないようにしていました。
渡したトレーニングメニュー。
あれは、毎朝5時30分から、私自身が選手になったつもりで、何度も何度も自分で試して考え抜いたものです。
試合中の動画を食い入るように見つめ、トレーニング中の動きを観察し、
そして監督やコーチとの対話の中から重要な「ワード」を拾い集める。
それら全ての要素を繋ぎ合わせ、一切の妥協をせずに作っていました。
でも、それを押し付けたくはなかった。 指導者の熱量にただ引っ張られるのではなく、
選手自身がその意味を理解し、淡々と、しかし主体的にメニューと向き合ってほしかったからです。
もちろん、
私がそうやって密かに込めた思いが、本当に届いているのか、どう思われているのか、私には分かりません。
でも、それでもいい。
昨日の最後のトレーニングを見て、私はそう思いました。
あの動き、力強さ、キレ……。 私の想像を遥かに超えていました。
隠していた私の思いが伝わったかどうかは関係ない。
その素晴らしい「動き」こそが、全ての答えだったからです。
今の仕上がった体は、
私がイメージしていた「優勝するチーム」のフィジカルそのもの、いや、それ以上です。
もう、私から言うことはありません。 私の「行動(メニュー)」への答えを、ピッチの上で見せてください。
誰よりも強い。
行ってこい。
そして、必ず勝ってこい!
TASHIRO CLUB 田代
第33回全日本高等学校女子サッカー選手権大会 https://www.jfa.jp/match/highschool_womens_2025/match_page/m32.html

