私には、捨てられないものがあります。 バッティングセンターのコイン、たったの1枚です。

今から約24年前の話です。

当時、祖父に会いに行く途中だった私は、ふとバッティングセンターに立ち寄りました。

「あと1ゲームやろう」と思ってコインを手にしましたが、その時、急激な眠気に襲われました。

結局、そのコインを使うこともなく、私は車の中で寝てしまったのです。

目が覚めると、もう夕方でした。 「今から行っても遅いな。

また今度でいいか」 私はそう判断し、その日は祖父の家には寄らず、そのまま帰ってしまいました。

それが最後でした。 あの日、「また今度」を選んだせいで、

私は二度と祖父に会うことができませんでした。

手元に残った、使わなかった1枚のコイン。

あの日、寄り道なんてせずに、すぐに会いに行っていれば……。

それからです。私が変わったのは。

「『あとで』なんて、二度と来ないかもしれない」

あの日が、一つのきっかけだったのかもしれません。

それ以来、「今やれることは、今やる」「何事も、全力でやる」という考えが、

私の中で当たり前のものになっていきました。

今でも、そのコインは私の車の中の、一番よく見える場所に置いてあります。

毎日、ジムや指導現場に向かう時、必ずそのコインが目に入ります。

ハンドルを握り、ふとそのコインを見ると、自然と自分自身を振り返ってしまうのです。

「今、やれることをやっているか?」 「今日も一日、全力でやれたか?」

誰に言われるわけでもなく、ふとそう思う。 それが、私の日常になっています。

そして、指導からの帰り道。 もし、少しでも妥協があったり、

全力を尽くせなかったと感じた時は、深く反省し、時には悔しい思いをすることもあります。

そうやって毎日、自分自身と向き合い、また次の現場へと向かうのです。

だからこそ、正直に言います。

「気持ちがない人」に対して、激しい温度差を感じてしまうことがあります。

私は、いつ終わるか分からない「今」という時間に、全力で向き合っています。

だから、目の前の相手が「なんとなく」で時間を過ごしていたり、全力を出し惜しみしているのを見ると、

どうしても心が離れてしまうのです。

私がストイックに見えるとしたら、それは私が特別な人間だからではありません。

あの日の一枚のコインがきっかけとなって、「今」を大切にする生き方が、

体に染み付いているだけなのかもしれません。

目の前の選手に、家族に、そして今日という一日に。 120%で向き合う。

それが、あの日祖父に会えなかった私が、今の私に課した、一生解けない約束なのです。

TASHIRO CLUB 田代